ゼニアの中でも特に最高級の品質を誇るレーベル「ミルミル15」(クインディッチ・ミルミル・クインディッチ)。このレーベルの名の由来は、使用されている原毛の太さにあります。
ミルミル15に使用されている原毛は、繊維の平均直径が約15ミクロンのもの。ちなみに、ゼニアの中でも最もクオリティが高いとされる「トロフェオ」に使用される原毛は平均直径約16ミクロンですから、これよりさらに細い原毛を使用していることになります。
これほど細い原毛は非常に貴重です。衣料品に適しているメリノ種の羊から取れるウールを「メリノウール」といいますが、まずこの繊維の平均直径が約23ミクロン。中でも上質な衣料品の原料として使用される「スーパーファインメリノウール」の繊維の平均直径が19.5ミクロン。このスーパーファインメリノウールの生産量は、全メリノウールの生産量のわずか15%程度しかありません。そこから考えると、ミルミル15に使用されているわずか15ミクロンという細さの原毛がいかに貴重なのかが想像できることでしょう。
実は、原毛の細さだけ見れば、かつては14milmil14(クワットロディッチ・ミルミル・クワットロディッチ)、13milmil13(トレディッチ・ミルミル・トレディッチ)という、より細い原毛を使用して織られたレーベルもありました。名前が示す通り、14milmil14には直径14ミクロン、13milmil13には直径13ミクロンの原毛が使用されています。しかし、この数年間は、この2つのレーベルの企画はありません。
14milmil14、13milmil13の生地を手に取ると、ミルミル15よりも若干生地が厚いように感じられます。おそらく、その理由は、「繊維が細すぎる」ということにあると思われます。
14ミクロン、13ミクロンクラスの原毛となると、それなりの量の繊維を撚って糸を作らなければ、強度を保てません。その結果、ミルミル15と比較すると、「より細い原毛を使っているにもかかわらず、原毛をより多く使うため、重さ、生地の厚みが増してしまう」ということになってしまうのではないか、と推測されます。
ここ数年、ゼニアのレーベルに使用される原毛は全体的に細くなり、生地は軽く、薄くなってきています。その流れの中、14milmil14、13milmil13の企画がなくなったのは、「細い原毛を使用しているが、原毛を大量に使うため、生地は厚くなってしまう」という14milmil14、13milmil13の存在に矛盾を感じたためなのかもしれません。
さて、ミルミル15に話を戻しましょう。
では、このような細い原毛から作った生地は、どのような特徴の生地になるのでしょうか。ここで参考としてあげたいのが、カシミアです。独特のヌメリや光沢感、柔らかさで知られるカシミアですが、カシミアの原毛の繊維の平均直径は約15ミクロン。すなわち、ミルミル15とほぼ同じ細さです。
ウール(羊毛)とカシミア(カシミア山羊の毛)という違いはありますが、ほぼ同じくらいの細さの繊維を使用しているからでしょうか、ゼニアのミルミル15の特徴はカシミアの生地とよく似ています。具体的には、ツヤ感やしっとりとした手触り、柔らかさなどが上げられるでしょう。また、細い繊維を使っているため、目付け(1メートル辺りの生地の重さ)も約230〜240グラムと非常に軽く仕上がります。ちなみに、2013年にリニューアルされた春夏もののトロフェオの目付は約240〜245グラムですから、ミルミル15は春夏ものにも匹敵する軽さ、ということになります。ウールでありながら、カシミアを思わせるようなしっとりとした手触りと高級感のある、軽い生地。それが、ミルミル15なのです。
さて、このように非常に繊細な原毛を使用したミルミル15ですが、あまりに細すぎる原毛を使用しているため、1つ問題が生じます。それは「スーツに仕立てるために、高度な技術が必要である」ということです。
なぜ高度な技術が必要かというと、その理由は「空気中の湿気」にあります。
たとえば、雨の日にスーツが少ししっとり湿ってふやけたように感じられることはありませんか? 繊維には、細ければ細いほど空気中の湿気の影響を受けやすくなり、日によって微妙に状態を変えるという特徴があります(詳しい説明についてはこちら)。
ゼニアのレーベルにはどれも細い原毛が使用されているので、多かれ少なかれこの問題が発生します。ミルミル15のような特に細い原毛を使用した生地になると、この傾向はより強くなります。
そのため、ミルミル15でスーツを仕立てる場合は、日々微妙に状態を変える生地を扱うことができる、熟練した職人の技が必要です。
た とえば、ジャケットについて考えましょう。ジャケットは、表地と裏地、そして芯地という3つの生地を縫い合わせて作ります。表地と裏地については説明の必 要はないでしょう。芯地というのは、表地と裏地の間にいれる生地です。ジャケットの形を保ち、耐久性を高めるという役割があります。
この表地と裏地、芯地が、どれも同じように湿気によって伸縮するのであれば問題はありません。しかし、表地、裏地、芯地の3つは、それぞれ原料が違います。たとえばゼニアの場合、表地はウール、裏地はキュプラ(ゼニアの裏地について詳しくはこちら)、そして芯地はさまざまな種類をそのときのスーツ生地に合わせて使っているのですが、ミルミル15クラスのやわらかな生地であれば、馬の尻尾の毛を使った「本バス毛芯」を使うことになるでしょう。
素材が違いますから、当然、湿気によって受ける影響も変わります。ということは、表地、芯地、裏地がきっちりと縫い合わされてしまっていたら、湿気によってそれぞれが違う伸び縮み方をするため、よりシワになりやすくなってしまいます。
そこで、表地と芯地の間に、それぞれの伸びの違いを吸収できるようなわずかな隙間を、いわゆる「遊び」として入れ、さらに裏地にも余裕を持たせて仕立てる必要があります。
表地と芯地の間にわずかな隙間を入れて仕立てようとすると、「ハ刺し」と呼ばれる縫い方で両者を合わせて縫い付ける必要があります。ハ刺しというのは、縫目 がカタカナの「ハ」の字に見えることからついた名前です。ハ指しには、手縫いと機械縫いの2種類がありますが、すべて手縫いでハ刺しを行ったとしたら、 ジャケット1着縫うのになんと1800針程度はハ刺しを行う必要があります。
また、芯地といってもやはり繊維を織って作った「生地」ですから、湿気によって微妙に伸び縮みをします。この伸び縮みの方向が表地と芯地とで違うと、それも またシワの原因になります。これを防ぐためには、表地と芯地の織り目の方向をぴったり合わせなければいけないのです(芯地についての詳しい説明はこちら)。
また、裏地については、あえて若干余裕を持たせ、表地の伸縮を吸収できるようにして縫い付ける必要があります。湿気の影響を受けやすい繊細な生地で仕立てた スーツの裏地は、全体的に若干たるみがつくようにして縫い付けられています。この若干のたるみを持たせようと思ったら、やはり、機械で単純に縫っていくわけにはいきません。裏地全体の様子を見ながら、適度なたるみになるよう微調整しつつ縫い付けていくことになります。これができるようになるには当然、長い経験と優れた技術が必要です。
このように、湿気の影響を受けやすい繊細な原毛を使用したゼニアのミルミル15で仕立てたスーツには、生地そのものの品質と、その生地を美しいシルエットのスーツに仕立てることができる職人の技術が詰まっている、と言ってもいいでしょう。
ですから、ミルミル15でスーツを仕立てたい場合は、まずはそのテーラーがちゃんとミルミル15を仕立てることができるだけの技術を持っているかどうかを見極める必要があります。見極めるポイントは2つ。1つ目は、本バス毛芯を使っているか、という点。2つ目は、前述したように表地と芯地を適切に縫い合わせる技術を持っているか、という点です。この2つのポイントを満たしたテーラーを選ぶことができれば、ミルミル15の良さを余さず活かしたオーダースーツを仕立てることができることでしょう。
生地の品質と仕立ての技術の両方を兼ね備えければ生まれないミルミル15のスーツは、ゼニア社にとっても他のレーベルを使ったスーツと一線を画す存在と位置づけられていると思われます。それを伺わせるのが、ミルミル15で仕立てられたスーツにつけられるラベルです。
ゼニア社の生地で仕立てたスーツには、赤もしくは青のラベルが付けられます。青はゼニアの生地を使った既製品スーツに、赤はゼニアの生地を使ったオーダースーツにつけられます(詳しい説明はこちら)。しかし、ミルミル15については、このレーベルだけの特別なラベルが用意されているのです。
ミルミル15の 専用ラベルは、地の色は青。青とはいえ、一般的な青ラベルとは少し色が違い、より鮮やかな色をしています。また、大きさも一回り大きなものになっていま す。この専用ラベルを付けることで、ゼニア社は「このレーベルで仕立てたスーツは、生地の品質も、仕立てるために使われる技術もワンランク上のものである」ということを示しているのです。
最上のゼニアを使った、最高のスーツを着たい。そう思われるのであれば、ミルミル15を一度ご覧いただくことをおすすめいたします。
※ここに掲載している生地の在庫は『オーダースーツ 榮屋本舗』までお問い合わせください。
生地NO.Z2960-1552 | ||
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商品名 | ミルミル15(秋冬) |
色 | ブラック | |
柄 | シャドーストライプ×マイクロヘリンボーン | |
解説 | 4mm巾のマイクロヘリンボーンの中にダブルのシャドーストライプが形成されています。 キングオブゼニアと言ってもいい生地『15milmil15』(通称: ミルミル15)。カシミアのような柔らかな手触りが特徴の生地です。 |
生地NO.Z2960-1555 | ||
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![]() |
商品名 | ミルミル15(秋冬) |
色 | ネイビー | |
柄 | シャドーストライプ×マイクロヘリンボーン | |
解説 | 4mm巾のマイクロヘリンボーンの中にダブルのシャドーストライプが形成されています。 キングオブゼニアと言ってもいい生地『15milmil15』(通称: ミルミル15)。カシミアのような柔らかな手触りが特徴の生地です。 |
ゼニア・ダンヒル専門オーダースーツの榮屋本舗 東京駅店店長の前田です。
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