スーツなどさまざまな衣類に用いられているウール。もちろん、ゼニアスーツの生地にも使われています。このウールという素材が数多くの衣類に使われる理由には、ウール独自の特性が関係しています。
ウール、すなわち羊毛の繊維は高い保温性を備えています。これは、繊維の中にある縮れ(クリンプ)が空気を多く含むことによるものです。吸汗性・吸湿性にも優れ、さらに吸収した水分を素早く放出する機能も備えています。このように、羊毛を用いた衣類では繊維が汗をいったん吸収してから外に放出する役割を果たすため、体温を奪うことなく衣服の中の温度を一定に保つことができるのです。
さらに、羊毛の繊維の表面を覆う薄い膜は水をはじく性質を持っており、水分や汚れが生地にしみ込むのを防いでくれます。また悪臭などを繊維内に取り込み、分解する特性まで備えているのです。まさに羊毛は、衣類にうってつけの素材と言えるでしょう。
衣服や日用品に最適の羊毛とは
ただし、羊毛と一口に言っても、どんな種類の羊の毛でも同様の特性を持つわけではありません。3000種以上に及ぶ羊の種類の中で、羊毛の状態は太さ、長さ、縮れ具合など微妙に違っているため、衣類に適する種類も自ずと限定されます。衣服や日用品などに使われる羊の種類としては、主にコリデール種、ロムニー種、メリノ種などがあります。
コリデール種はオーストラリアや南米に多い種で、太めの毛とソフトな感触が特徴。ある程度の圧力がかかっても潰れることがないので、厚みを重視する寝装寝具などに多く使われます。ロムニー種は英国ケント州ロムニー産の羊で、ニュージーランドでもよく見られる毛長タイプ。長く太い毛の特性から、よくカーペットに用いられます。
ウールの中でも衣類に最適といわれるメリノ種は、スペイン原産とされています。メリノ種はさらに産地によって、オーストラリア・メリノ、ニュージーランド・メリノ、フランス・メリノの3種に大別されます。この3つは品質がやや異なっており、オーストラリア・メリノ種とニュージーランド・メリノ種の2つが主にスーツをはじめとする衣類に使われています。
スペイン原産のメリノ種をオーストラリアの気候や風土、環境の中で育てたのがオーストラリア・メリノ種。繊維に縮みが多いのが特徴で、細く長い毛の質とそのしなやかさから、衣類用の素材として最適とされています。
細長い脚と軽量が特徴のニュージーランド・メリノ種はニュージーランドの気候に適応させた種。繊維に柔軟性と弾力性を持ち、毛の太さは19〜24ミクロン程度です。その産毛量はニュージーランド原産の羊毛全体の約5%と少ないのですが、これは他種に比べて成長に時間がかかること、低い出産率などが影響しているようです。
ゼニアスーツに使われている原毛の特性について
ゼニアでも、オーストラリア・メリノ種とニュージーランド・メリノ種のウールを使ったレーベルを作っています。トロフェオではオーストラリア・メリノ種のみを使用。またソルテックスではオーストラリア・メリノ種とニュージーランド・メリノ種の両方を使用することで、独特の柔軟性と弾力性、繊細で美しい光沢を生み出しています。
専門的な話になりますが、同じ羊の毛でも、毛の太さや柔らかさは羊の体の部位によって異なります。外気に晒されることの多い背中側の毛は固く、直接外気に触れることの少ない腹側の毛は背中側に比べて柔らかくなります。このため、1頭の羊から刈り取られた原毛は、工場へ運搬された後、部位によって細く柔らかい毛と太く固い毛とに選別されます。中でも最も良質とされているのが、肩から脇の部位の原毛。ゼニアでは、この部位の原毛だけを買い付けた上、さらにその中から厳選した最高品質の原毛をゼニアスーツの生地の素材として使っています。
毛の柔らかさは、大人の羊か子どもの羊かによっても変わります。子羊は、体が小さい上に毛の質が大人の羊に比べて細いので、複数の子羊の毛を刈り取って集めないと必要な分量を確保することができません。このため、大人の羊に比べてコスト高になりがちです。
これまでお話してきたように、一括りに「羊毛」と言ってもその種類は多彩で、その特性によって用途も異なってきます。ゼニアでは、数ある羊毛の中でも最高級の品質を誇るメリノ種、それも1頭の体内で最も優れた品質の部位のみを選別し使用しています。
こうした背景を知ることで、ますますゼニアスーツを選んで着ることの誇りや喜びを感じていただけると思います。
ゼニア・ダンヒル専門オーダースーツの榮屋本舗 東京駅店店長の前田です。
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